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「価値」は、モノに宿らない。
人が感じた瞬間に生まれる。

2026.06.15 | 森谷 盛広

「良いものを作れば売れる」——このひと言に、多くのものづくり企業が苦しんでいます。品質は本物なのに、なぜか伝わらない。理由は「価値」のとらえ方にあります。

私は25年、CMディレクターとして「良いのに、伝わらない」を何百回も見てきました。そのたびに突き当たるのは、同じ問いです。そもそも、価値とはどこにあるのか。

私たちの答えはこうです。価値はモノそのものに宿るのではなく、人が「これは自分のためになる」と感じた瞬間に生まれる。だから、どれほど優れた商品も、感じられなければ価値は存在しないのと同じです。同じ品質の日本酒が1,500円と3,000円に分かれるのは、味ではなく"語り方"の差です。価値を「感じられる形」にすること——それがマーケティングであり、広告の仕事だと考えています。

久保田×snow peak——つくり手の想いを伝えるブランドムービー

価値には、4つの層がある

マーケティングの世界では長く、価値は「機能・情緒・社会」の3層で語られてきました。しかし、いま人が動く理由は、それだけでは説明できません。アルチは、価値を4つの層ひとつの軸で捉えます。

◇機能的価値——「助かる」

役に立つこと。性能・品質・利便。すべての価値の土台です。作業服のワークマンが一般のお客様に広がったのは、「4,000円台で雨を完全に防ぐ」というスペックと価格が「この値段でこの性能は助かる」と発見されたから。世界観ではなく、機能が語られた例です。

ただし注意が必要です。機能は購買の入場券である一方、最も模倣されやすい価値でもあります。「防水4,000円」は、競合が明日出せる。機能だけで戦うと、最後は価格競争に行き着きます。

◇情緒的価値——「好き」

心が動くこと。世界観・体験・共感。コーヒーの味だけならもっと安い選択肢があるのに人がスターバックスを選ぶのは、「第三の場所」という居場所の体験を買っているからです。機能は比較されますが、「好き」は比較されません。好きに相見積もりはない。価格競争からの出口は、ほとんどの場合この層にあります。

◇認識的価値——「試したい」「語りたい」

新しいこと。発見・話題・遊び。手元の機種で機能は足りているのに新しいiPhoneに行列ができるのは、「新しいものに最初に触れたい、語りたい」という好奇心が動くからです。「必要」は慣れると空気になり、空気は語られない。認識的価値はその解毒剤です。SNS時代の購買の多くは、この層で駆動しています。

◇社会的価値——「誇らしい」

意味があること。地域・環境・次世代。地方の酒蔵が支持されるとき、理由は味だけではありません。「この土地の米と水で、雇用を守りながら、百年つくり続けている」——買うことが地域を残すことへの一票になる。社会的価値は、顧客を消費者から支持者に変えます。4つの層で最も模倣が困難な価値です。

01から04へ進むほど、模倣されにくい価値になります。「助かる→好き→試したい→誇らしい」は、お客様との関与が深まる階段でもあります。

金色の風——土地の物語を映すブランド映像

文脈が、価値を増幅する——条件的価値

そして、4つの層を横から増幅する軸があります。条件的価値——「いつ・どこで・誰と」です。

12月24日のショートケーキと、1月の同じケーキ。味も価格も同じなのに、価値はまるで違う。変わったのはケーキではなく文脈です。「きっと勝つ」という語呂と受験シーズンが重なった瞬間、キットカットはお菓子から「お守り」に変わりました。商品を変えずに、価値を変えた例です。

人は商品を常に考えていません。「いつ・どこで・誰と」という想起の入口を押さえたブランドだけが、必要な瞬間に思い出されます。この文脈を設計する仕事こそが——広告です。

よくある誤解——「安さ」と「品質」をめぐって

◇誤解1:安くすれば、価値が上がる

値下げは価値の創造ではなく、価値の前借りです。価格を下げて売れたとき、増えたのは「価値を感じた人」ではなく「その価格なら損をしないと判断した人」。この二者は、次の値上げの瞬間にはっきり分かれます。前者は残り、後者は去ります。安さで集めたお客様は、より安い競合が現れた瞬間にいなくなる——価格は、最も裏切られやすい約束です。

◇誤解2:品質を上げれば、価値は伝わる

ものづくり企業が最も陥りやすいのがこちらです。品質は価値の土台ですが、感じられなければ存在しないのが価値の性質です。展示会で「うちの精度は0.001ミリです」と語る町工場と、「その精度が、人工衛星の心臓部を支えています」と語る町工場。技術は同じでも、感じられる価値はまるで違います。品質を上げる努力と同じだけ、「感じられる形にする」努力が要るのです。

◇誤解3:価値づくりは、大企業のやること

逆です。機能の競争は資本力の競争になりやすいのに対し、情緒・認識・社会の価値は、歴史と物語を持つ会社なら規模に関係なく築けます。むしろ創業80年の蔵元や三代続く町工場のほうが、大企業には真似できない物語の蓄積を持っています。眠っているだけで、無いわけではない。私たちの仕事は、その発掘から始まります。

価値ある企業とは

商品の価値を企業に引き上げると、こうなります。価値ある企業とは、「なくなったら困る」と思われる企業。そして、「なくなってほしくない」と願われる企業。

思われ続けるために——3つの条件

一度「価値ある」と思われることより、思われ続けることのほうが難しい。必要なのは次の3つだと考えています。

自社を棚卸しする——5つの問い

最後に、自社の商品・サービスをこの5つの問いで点検してみてください。

ひとつでも即答できない問いがあれば、そこに伸びしろがあります。アルチは、あなたの商品と企業が持つ4つの価値を見立て、感じられる形にするところから伴走します。

森谷 盛広
森谷 盛広

合同会社アルチ 代表/CMディレクター25年。ものづくり企業のブランドコミュニケーションを数多く手がける。ブランド・マネージャー認定協会トレーナー、武蔵野大学アジアAI研究所 客席研究員。

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