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なぜ、あのCMは売れたのか。
設計図を分解する。

2026.05.25 | 森谷 盛広

「売れるCM」と「印象に残らないCM」。その差は、才能ではなく"設計"にあります。25年の現場で見てきた、機能する広告の共通項を分解します。

私はCMディレクターとして25年、ナショナルブランドから地方の蔵元まで、数多くの広告の現場に立ってきました。機能した広告とそうでない広告、その両方を間近で見てきて言えることがあります。売れた広告には、必ず順番があるということです。

アサヒスーパードライ——ブランドを支える広告表現の現場

「売れる」と「伝わる」は違う

まず、混同されやすい2つを分けるところから始めます。短期の獲得(売れる)と、長期の想起(伝わる)は、別の仕事です。

「売れる」は、いま買う理由をつくること。価格、限定、キャンペーン——行動を後押しする設計です。「伝わる」は、いつか必要になった瞬間に思い出される理由をつくること。ブランドの世界観や物語を記憶に残す設計です。

この二つを1本の広告に同時に詰め込むと、どちらも中途半端になります。よくある「会社紹介もしたい、商品も売りたい、採用にも使いたい」という1本が機能しないのは、このためです。まず何を狙うのかを決めること。それが設計の出発点です。

売れた広告の設計図——4つの順番

機能した広告を分解すると、ほぼ例外なく「課題 → インサイト → 一言 → 表現」の順で組まれています。

◇1. 課題——なぜ、この広告をやるのか

売上か、認知か、採用か、単価か。経営のどの数字を動かしたいのかを最初に確定します。ここが曖昧なまま進むと、後工程のすべてが曖昧になります。

◇2. インサイト——まだ言葉になっていない本音

ターゲットの表面的な属性ではなく、「本当はこう思っている」という機微を掘り当てます。良いインサイトが見つかると、広告は途端に「自分ごと」になります。逆に、インサイトを飛ばした広告は、どれだけ美しくても他人事のまま流れていきます。

◇3. 一言——戦略を、ひとつの言葉に凝縮する

課題とインサイトが重なる場所に、伝えるべき「一言」が生まれます。この一言が決まれば、表現はぶれません。私の経験では、良い企画は必ず一言で説明できます。逆に、説明に3分かかる企画は、視聴者には3秒も伝わりません。

◇4. 表現——最後に、初めて「どう見せるか」

映像のトーン、キャスティング、音楽、編集。クラフトの出番はここからです。世界基準のクラフトは強力な武器ですが、それは1〜3の土台があってこそ機能します。

表現から入った広告は、なぜ失敗するのか

失敗する広告の多くは、この順番が逆です。「かっこいい映像にしたい」「話題になるアイデアはないか」——表現から入ると、見た目は整っているのに、誰の心も動かさない1本ができあがります。

理由はシンプルで、視聴者は広告を見たいと思っていないからです。自分に関係のある話だと感じた瞬間にだけ、人は手を止めます。その「関係のある話」をつくるのが課題とインサイトの仕事であり、表現はそれを最短距離で届ける乗り物です。

明治——商品の価値を物語に変えるCM表現

媒体が変わっても、順番は変わらない

「テレビCMの時代の話でしょう」と思われるかもしれません。違います。15秒のTVCMも、6秒のバンパー広告も、3分のブランドムービーも、縦型のSNS動画も、機能するものは同じ順番で設計されています。

変わったのは、視聴者に与えられた「逃げる自由」の大きさです。テレビの前の視聴者は15秒待ってくれましたが、スマホの視聴者は1秒で指を動かします。つまり、インサイトの精度勝負はむしろ厳しくなりました。最初の1秒で「自分の話だ」と感じさせられるか。媒体が増えるほど、設計の重要性は上がっているのです。

現場でよく聞かれる2つの質問

◇有名タレントを起用すれば、売れますか?

タレントは「見てもらう」までの距離を縮めてくれますが、「伝わる」を保証しません。設計のない広告にタレントを起用すると、「タレントは覚えているが、何の広告か思い出せない」という結果になりがちです。予算の限られた企業ほど、タレント費より先に、設計と表現の質に投資すべきだと私は考えています。

◇15秒と3分、どちらが良いですか?

目的次第です。広く浅く想起をつくるなら短尺の反復、深く「好き」をつくるなら長尺の物語。理想は、ひとつの設計図から長尺・短尺・静止画までを一貫して展開することです。核になる「一言」が決まっていれば、尺の展開は自在にできます。逆に一言がないまま尺だけ決めると、長くても短くても散漫になります。

「自分ごと」になる瞬間

現場で何度も見てきた光景があります。試写室で、クライアントの担当者が広告を見て、ふっと自分の家族の顔を思い浮かべる瞬間。その広告は、だいたい機能します。

広告が機能するとは、商品スペックが伝わることではありません。見た人の記憶の中にある何かと結びついて、「これは私の話だ」と感じてもらえること。だから私たちは、撮影の前に、その会社の技術や歴史の中から「誰の、どんな記憶と結びつけるか」を探すことに、最も時間をかけます。

広告は「価値」が伝わったとき、初めて機能する

アルチが「広告制作会社」ではなく「見えない価値をカタチにする会社」と名乗るのは、この順番を守るためです。課題を聞き、価値を見立て、一言に凝縮してから、25年のクラフトで表現する。設計から表現までを一人の目で貫くことが、「売れる」と「伝わる」を両立させる最短ルートだと考えています。

森谷 盛広
森谷 盛広

合同会社アルチ 代表/CMディレクター25年。ものづくり企業のブランドコミュニケーションを数多く手がける。ブランド・マネージャー認定協会トレーナー、武蔵野大学アジアAI研究所 客席研究員。

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