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価値のつくり方

iPhoneの箱は、わざとゆっくり開く

2026.07.29 | 森谷 盛広

iPhoneの箱は、わざとゆっくり開くように設計されています。フタがすうっと持ち上がり、一拍おいて、本体が姿を見せる。あの「間」は、偶然ではありません。開ける瞬間の気持ちをじらすところまで、計算して作られています。

行列は、性能だけでは説明できない

冷静に考えれば、手元にある一年前の機種で、機能はほぼ足りています。それでも新しいiPhoneには行列ができ、発表はニュースになり、SNSは開封の投稿であふれる。もしiPhoneがずっと同じデザイン・同じ体験のままだったら、この行列はできません。

人を動かしているのは、「新しいものに最初に触れたい」「新機能を試したい、そして語りたい」という好奇心です。アルチでは、これを認識的価値と呼んでいます。お客様の心の声で言えば、「試したい」「語りたい」です。

「知る体験」まで、商品

Appleがすごいのは、製品と同じくらい、発表と開封という「知る体験」を設計しているところだと思います。箱を開ける瞬間の高揚感まで含めて、商品なんです。

ここで注目してほしいのは、箱の開き方を変えても、中身は一切変わらないということです。ゆっくり開こうが、一瞬で開こうが、出てくる機械は同じ。それでも、体験の設計ひとつで「試したい」「語りたい」の火のつき方がまるで違ってくる。性能表のどこにも載らない場所に、価値を設計する余地が残されているわけです。

「試したい」は、補給し続ける価値

認識的価値には、ひとつ難しさがあります。一度きりでは続かない、ということです。どんな新しさも、二度目には当たり前になる。同じことをしていると、確実に飽きられます。

iPhoneが行列を作り続けているのは、毎年、新しさを補給し続けているからです。しかも、既存のイメージは壊さない。ひと目でそれと分かる姿は保ったまま、「今年は何が変わった?」と語りたくなる部分だけを更新していく。既存のイメージを壊さずに、どう新しさを出し続けるか——認識的価値の設計は、この一点に懸かっています。

セミナーでは「『試したい』を、最近補給したか」という問いをお出ししました。大がかりでなくていい。年に1回、新しさを届ける企画があるかどうかです。和菓子店が定番の豆大福は変えずに月替わりの味をひとつ出すだけで、「今月は何?」という通う理由と話すネタが生まれる、という話もしました。

「開封」は、どんな商品にもある

あなたの商品にも、お客様が初めて知る瞬間、初めて触れる瞬間が必ずあります。封筒を開ける瞬間。店の扉を開ける瞬間。納品のダンボールを開ける瞬間。見積書のファイルを開く瞬間だって、そうです。

そこは、スペック競争の外側にある、もうひとつの勝負どころです。性能の差はいつか追いつかれますが、体験の設計は簡単には真似されません。

持ち帰り

箱の開き方ひとつで、価値は変わります。

森谷 盛広
森谷 盛広

合同会社アルチ 代表/CMディレクター25年。ものづくり企業のブランドコミュニケーションを数多く手がける。ブランド・マネージャー認定協会トレーナー、武蔵野大学アジアAI研究所 客席研究員。

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