12月24日の夕方。駅前の洋菓子店に列ができて、白い箱を提げた人たちが、少し急ぎ足で家に向かっていきます。箱の中のショートケーキは、じつは1月に並んでいるものと同じ味です。値段も、ほとんど変わりません。それなのに、この日のケーキだけが特別に見える。
先日、渋谷で「価値」をテーマにセミナーをしました。その冒頭で話したのが、このケーキの話です。今日はこの一点だけを書きます。商品を変えなくても、文脈が価値を変える、という話です。
ケーキは、どこで食べても同じ味です。でも12月24日になると、急に価値が上がる。みんなが食べたくなる。理由は、「いつ・どこで・誰と食べるか」があるからです。
一年に一度。家族と。あの音楽が流れる街で。1月にひとりで食べるケーキと、12月に家族で囲むケーキは、味が同じでも価値がまるで違います。変わったのはケーキではなく、まわりの文脈のほうです。文脈が、「おいしい」という機能と、「嬉しい」という感情を、何倍にも増幅している。
そもそも価値は、モノに宿りません。人が感じた瞬間に生まれます。どんなに優れた商品でも、誰一人いいと思わなければ、それはただの物体です。だから、感じてもらえる状況——文脈——を作れるかどうかが、商品の磨き込みと同じくらい大切になります。
バレンタインも、一説にはチョコレートメーカーがプロモーションで作った記念日です。
作られた記念日と聞くと、少し興ざめするかもしれません。でも、大事なのはここからです。ユーザー側がチョコレートを交換し、人と人のつながりが生まれると、そこに本物の価値が生まれてくる。きっかけは企業の仕掛けでも、人の生活に入り込んだ瞬間、文脈は本物になるんです。
人の生活に、どう入っていくか。私はここが、広告の仕事のいちばん深いところだと思っています。
アルチでは、この文脈の力を条件的価値と呼んでいます。中身は「いつ・どこで・誰と」。
気をつけたいのは、条件的価値は5つ目の「層」ではない、ということです。単独では存在しません。機能的価値(「助かる」)、情緒的価値(「好き」)、認識的価値(「試したい」)、社会的価値(「誇らしい」)という4つの価値の層すべてに火をつける、横串の軸です。
ケーキで言えば、「おいしい」も「嬉しい」も、一年中ずっとそこにありました。12月24日という文脈が、その全部にいっぺんに火をつけただけ。商品は、何ひとつ変わっていないのに、です。
だから、売れないときに商品ばかりいじるのは、少しもったいない。味を変え、値段を下げ、パッケージを新しくする前に、一度だけ問うてみてほしいのです。この商品は、いつ・どこで・誰と、思い出されたいのか。
この文脈を、どう作り、どう伝えるか。それが広告の仕事だと思っています。
業種と6つの質問に答えるだけ。